anone.one連載企画:お風呂の「当たり前」を疑う、第1回(防犯編)
anone.one編集部員による、全3回の連載対談です。お風呂に「窓」があるという当たり前の常識を、防犯、科学(結露・カビ)、そして空気の質の3つの視点から鮮やかに解体していくシリーズです。

下大利 楓(ライフスタイル編集者)
一般的な賃貸や建売住宅での暮らしを経験してきた、anone.oneの善良な生活者代表。「お風呂には窓、バスタブがあって当たり前」という世間の常識や、読者が心の底で感じる「え、それって本当に大丈夫?」と真っ先に引っかかってしまう、生粋のリアル目線担当。読者の一番近いところで一緒に首をかしげてくれるナビゲーター。
白木原 悦子(建築ディレクター)
建築・空間デザインのディレクター。「古い常識の裏にある構造的な矛盾」を見抜くのが好きで、新しいライフスタイルの仕組みを論理的かつスマートに紐解く水先案内人。日々の暮らしの「当たり前」を軽やかにひっくり返すのがモットー。 クラシコアの建築思想や科学的合理性をバックボーンに持ち、Aの素朴な疑問を「よく見たら、こっちの方が圧倒的に美しいでしょ?」と鮮やかに解決していく知的ガイド。

お風呂の窓は、泥棒のウェルカムゲート?
下大利 楓:読者から突っ込まれそうなポイントがあるんです。それはズバリ、『お風呂に窓、なくない?』ってところ。クラシコアの設計って、シャワールーム(浴室)に窓がないですよね。これ、最初は『え、暗くない? 湿気こもらない?』ってドキッとしたんです。」
白木原 悦子:「あー、たしかに!『お風呂の窓を開けてしっかり換気したい』とか『朝の光の中で気持ちよく入りたい』っていう憧れ、どうしてもあるよね。」
下大利 楓:「ですよね。でも、クラシコアの設計思想を読み込んでいくと、あえて窓をなくすのにはめちゃくちゃ合理的な理由があるんだなって分かってきたんです。」
白木原 悦子:「そうそう。まず大きいのは、『家の貴重な外側の壁面をお風呂に占領させない』っていうこと。外の気持ちいい光や景色は、やっぱりリビングや居室のガラス張りの空間にぜんぶ使いたいじゃない?」
下大利 楓:「たしかに! 家の一等地にわざわざお風呂を張り付けるせいで、居室のレイアウトが制限されるのはもったいないですよね。水回りを中央の『センターコア』にまとめて回遊空間にすれば、四方からメンテナンスもしやすいし。」
白木原 悦子:「うんうん。それに、声を大にして言いたいのが……『泥棒だって、わざわざリビングの大きなガラスを派手に割ったりしない。大体は、人目につかないお風呂やトイレの小さな窓からスマートに侵入してくる』っていう現実(笑)。」
下大利 楓:「うわ、それめちゃくちゃリアル……! 防犯のニュースとかでよく聞くやつですね。『換気のために少しだけ開けておいたお風呂の窓から……』っていう。」
白木原 悦子:「そう。『換気』という名のセキュリティーホールを自ら作っているようなものなんだよね。お風呂に窓をなくすってことは、『防犯上の最大の弱点を物理的に消し去る』っていう最強のメリットでもあるわけ。」

下大利 楓:「たしかに! 換気や調湿は現代の高性能な換気システムに任せちゃえばいいし、窓という『泥棒のウェルカムゲート』をなくせるなら、むしろ無いほうが圧倒的に安心ですね。」お風呂入るのほぼ夜だから開けたとて景色見えないですし、開けてたら向こうから丸見え、、、恥ずかしい・・・・

あとがき
見えない風と、静かな夜
私たちは、子どもの頃から「窓を開けて空気を入れ替えましょう」と教えられて育ってきた。 朝起きたらカーテンを開け、窓を開け、新しい風を部屋に入れる。それはまるで、心まできれいになるような、正しくて清々しい毎日の儀式みたいだった。
けれど、大人になるにつれて、ふと立ち止まってしまう瞬間がある。 外の空気は、本当にいつもただやさしく私たちを包んでくれているのだろうか。春には目に見えない粉が舞い、道路の向こうからは排気ガスの匂いがして、そして誰も見ていない夜の暗がりでは、小さな窓の隙間がひそかに外の世界と家をつないでいたりする。
お風呂という、一日の終わりにいちばん無防備になる場所に、なぜか小さな窓がぽつんとあって、私たちはそこに「換気」という名前をつけて安心していた。でも、よくよく考えてみると、それは少し不思議なことなのかもしれない。
窓をなくす。 それは一見すると何かを失うことのようであって、実は、自分を脅かすかもしれない余計なノイズや不安を、きれいに手放すことなのだと思う。 外の世界と無理につながっていなくてもいい。しっかりと守られた空間のなかで、ただ静かに息をして、あたたかなお湯に身を委ねる。
そうやって、私たちが「当たり前」だと思い込んでいたものをひとつずつ優しくほどいていくと、毎日はもう少しだけ軽やかで、自分の足で立てるような確かなものになっていく気がする。
次回の第2回は、「窓がない方がカビない」という、ちょっと不思議で科学的なお話です。どうぞお楽しみに。
(吉田二毛作)